ムーヴ思考 ~EQが問われる時代~

その後1995年に心理学博士のダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)がまとめた「Emotional Intelligence(邦訳『EQこころの知能指数』講談社、1996年)」によってEQという概念が世界中に広く知られるようになりました。全世界で500万部、日本でも80万部以上の販売部数を記録する大ベストセラーとなっています。

 

EQの特徴

ゴールマンは、EQは次のような5つの能力であるとされています。

  • 動機付け:自身を動機づけ、挫折しても粘り強く取り組める能力
  • 自己抑制:衝動をコントロールし、快楽を我慢できる能力
  • 自己認識:自身の感情を把握し、整え、感情の乱れに思考を阻害されない能力
  • 共感性:他人に共感し、希望を見出せる能力
  • ソーシャルスキル:他者との調和した人間関係をマネジメントする能力

人の言動や行動は、その時々における自分自身の感情に大きく左右されています。したがって、自身の感情を意識して上手にコントロールし、適切な行動をとることが大切なのです。

また、自分だけではなく、相手の今の感情を認識し、相手に配慮した言動や行動がとれれば、対人コミュニケーションを円滑にすることができます。

 

IQというのは、「Intelligence Quotient」の略で、「知能指数」を指します。一般的に浸透している言葉なので、IQが高い人といえば、多くの方が記憶力が高く、勉強や仕事ができるイメージを持つのではないでしょうか。

今までは人の能力を測る指標のひとつとして有力視されているのが、修士や学士といった学歴でした。このため、学歴が高い、すなわちIQが高い人材がビジネスでも成功すると一般的に考えられてきたのです。今までの学校教育が偏差値の高い学校に行って、高い学歴を得ることが勧められてきた背景でもあります。

しかし、IQが高いからといって必ずしも成功できるとは限りません。学校や会社などの組織の中で上手く人とコミュニケーションをとれなければ、円滑に社会生活を営むことはできないからです。

 

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである。」どんな種類の悩みであれ、そこには必ず他者が関わるといわれています。

人間関係を円滑にすることができるEQがあってこそ、IQをいかすことができるのです。

 

「IQが高く優秀な人をリーダーに選任しても、チームとしては上手く機能しなかった。」

こういった経験は誰しも一度は感じたことがあるのではないでしょうか?

 

今はVUCAの時代といわれ、激しい変化と不透明な未来の中で事業を推進していくことが求められます。またグローバル化も進み、様々な要因が絡み合っている複雑な社会や組織の中では、自分一人の力だけで対応することはほぼ不可能です。

今後のリーダーに求められる能力は、他者のもつ専門性・知見・ネットワーク・アイディア等を引き出し、未来を構想しながら、推進していく力です。今後リーダーには、ますますEQの力が求められていきます。

 

日本の教育現場ではまだ耳慣れないEQ教育ですが、世界ではどのようにEQを高める教育が行われている。

世界では現在EQを高めるために、SEL(Social and Emotional Learning)教育が行われています。SELは日本語では「社会性と情動の学習」と訳されます。

高校では、仲間同士で何かもめたときに、その対立をエスカレートさせるのではなく、対立を解決するための聞き方や話し方を身につけ、お互いに何がベストな解決策なのかを話し合って交渉できるようになります。

これら全てが包括的にSEL教育の中に組み込まれています。

この教育を受けると、社会人になるまでに自己認識力が高まり、自他共に感情の動きに敏感になり、共感能力が高まり、他者とのコミュニケーションを円滑に進めることができるようになります。

 

1995年にゴールマンによって行われた「暴力問題を防止し、かつ子どもの学習を向上させるプログラム」において、SELが有効であることを示唆する証拠を発表しました。

SELは、子どもたちの自己認識と自信を高め、不安定な感情や衝動を整理し、他者への共感力を高めます。これは行動の改善だけでなく、学業成績の向上にもつながることが分かっています。

また、イリノイ大学シカゴ校のロジャー・ワイズバーグ教授によって、幼稚園児から高校生までの子どもたちを対象としたSELプログラム668件が調査された結果、SELプログラムは、学業成績の向上に大きな効果をもたらしたことが分かっています。

調査された学校では、最大50%の子どもたちが学力テストの成績が向上し、38%の子どもたちの成績平均点が向上しました。

さらにSELのプログラムが導入されたことで、学校がより心理的に安全な場所となり、出席率が向上し、63%の生徒がより積極的な行動を示すようになるという結果も出ています。